プロアマ融合でタイトルを目指す天皇杯は、何と言っても格下が格上を倒す「ジャイアントキリング」が最大の魅力だ。
10月の天皇杯2回戦。福岡大は、J1大宮と延長戦を含む120分間の死闘を演じ、PK戦の末に大金星を挙げた。大学勢がJ1に勝つのは2009年の明大(山形戦)に次ぎ史上2度目だった。大宮戦に向けた準備期間は2週間。大学リーグレベルから頭も体も完全に切り替え、とにかくプロを想定した練習に特化した。最も強調したのが精神面。過去に福岡大がJクラブに奮闘している場面だけを編集した「スペシャルイメージビデオ」を何度も見せた。
お手本となったのが、00年天皇杯3回戦の横浜マ戦。その年のJ1 第1ステージ王者を相手に、福岡大は後半15分過ぎまで0-0の戦いを演じた。最後は0-2で敗れたが、選手には「君たちの先輩がここまでやったんだ。とにかく勇気を持て」と言い続けた。
次はボディーコンタクト対策。当たりの強さは、プロと大学生では決定的に違う。普段はやらないお互いの体をぶつけて球際の激しさを高める練習を繰り返し、ヘディングの競り合いも背の高い選手だけでなく、全選手に徹底的にやらせた。おかげで、主力FWが直前に負傷してしまう代償もあったが……。戦術面の課題はとにかく組織的な守備力の向上。わざと崩された場面を想定し、どうカバーするかを何度も確認した。結果、大宮戦は4、5点取られてもおかしくないピンチの連続だったが、ゴールポストに助けられる「運」も味方につけ、粘り強く勝ち抜くことができた。
16日3回戦は、J2湘南戦。多くのアマ指導者が格上とやる時は「挑戦したい」とか「学びたい」と言うが、それではいつまでも勝てない。善戦ではなく、結果を出す覚悟が肝心だ。ピッチ上で笛が鳴ったら、プロもアマもない。早い時間帯に先行を許さず終盤まで耐えられたら、2戦連続の下克上も夢ではない。
参照元:2011年、朝日新聞コラム