「聞く力」。傾聴力は高校まで無名でも大学から輝く「遅咲きの逸材」が共通に備えている要素だ。
高校生を視察するとき、他人の評価はあてにせず、試合会場に足を運ぶ。自分の目で見て、選手と会話もしたいからだ。過去の代表選抜歴など肩書に興味はない。突出したスピードなどの才能を素直に伸ばせる人間性を兼ね備えているかどうかが大切だからだ。
スポーツの強豪校の選手は、大人の問いかけに対して無条件に「はい」と答える学生が多い。それではダメ。大学生は自由な時間の中で勉学はもちろん、サッカー以外にも好奇心旺盛で物事を取捨選択し、時間を効率的に使える能力が不可欠である。自分に何が必要かを判断でき、他人の助言を素直に受け入れる心が成長には最も大切だ。その上で、自分の価値観や判断基準をしっかり持っていないと潜在能力は開花しない。そのことを教えてくれた選手が福岡大出身で2006年ドイツW杯のピッチに立ったDF坪井(山口)や駒大出身の元日本代表巻だ。自己管理能力が高く、私が指示しなくても勝手に代表クラスの選手に成長していった。卒業後に急成長して代表入りする選手を育てると「どのように指導したのか」と聞かれるが、実はいい選手ほど手がかからないのが本音だ。
とはいえ、高校まで無名の選手が何もしないのではダイリンの花は咲かない。大学で伸びる選手には、飛べそうなハードルを常に用意している。「できた」という小さな成功体験を積み重ねることが大切だ、高すぎる目標は設定させない。しかし、飛び越えたらすぐに次の目標を用意して、4年間常に進化を促している。
また、大学はサッカー以外でも年齢層の違う大人と話をする機会が多い。そこでは、社会人に必要なコミュニケーション能力が鍛えられる。大学出身の選手は、サッカーを通じて人間性を磨かれる。
参照元:2011年、朝日新聞コラム